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【セミナーレポート】データを活かして考える、ウェルビーイングな地域社会とは

心身と社会的な健康を意味する概念といわれるウェルビーイングを、経済的な指標であるGDPに代わる、新しい 「社会的な幸福を測る指標」 として採用しよう、という動きが高まっています。先日、横浜市のみなとみらいで開催された国際コンベンション 「第12回アジア・スマートシティ会議」 では、アジア諸都市、政府機関や学術機関、民間企業等の代表者が一堂に集まり、経済成長と良好な都市環境が両立する持続可能な都市づくりの実現に向けた議論としてさまざまなセッションや講演が行われました。その中から、ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長である小村俊平氏も登壇したセッションをご紹介します。

セッションのテーマは 「ウェルビーイング指標の活用と産学官連携による政策事例の共有」 。ウェルビーイングという概念をデータでとらえること。それをもとに考えるこれからの社会とは。登壇したのは、地域のウェルビーイングの観点で、一般社団法人スマートシティ・インスティテュートの南雲岳彦氏、データサイエンスの点から、横浜市立大学教授 黒木淳氏、若者の生きづらさをテーマに、同じく横浜市立大学教授 宮﨑智之氏、ベネッセ教育総合研究所から小村氏の4名です。

それぞれの専門領域から、ウェルビーイング指標やその活用事例、若者の現状などが紹介され、人々のウェルビーイングを取り巻く問題やこれからの地域社会について議論がされました。


ウェルビーイング指標で地域の個性や心の状態が見えてくる

まずは南雲氏より、 「地域幸福度(Well-being)指標」 について紹介がありました。

一般社団法人スマートシティ・インスティテュート 専務理事 南雲 岳彦氏

「地域幸福度(Well-being)指標」 とは、市民の 「暮らしやすさ」 と 「幸福感(Well-being)」 を指標で数値化・可視化したもので、Web上にもその公開がされており、現在そのデータを基にした様々な活用が検討されているものです。

当日は、実際にいくつかの都市のデータがグラフで共有されました。

地域の人間関係、自分らしい生き方、ベースとしての生活環境、という大きく3つの軸から落とし込まれた24の因子別に、全国平均と比べたレーダーチャートが示されます。

そのデータからは、同じ神奈川県下の都市でも、地域によって違う個性が浮き彫りになっているのが見てとれ、会場でも大きな反応がありました。

例えば横浜市の場合は、生活満足度と町内の幸福度は全国と比べても高い一方で、住宅環境や自然の恵みはやや低い。一方で鎌倉市は自然景観や文化・芸術が突出しているなど、近隣都市と比べながらデータで示されることで、強みや弱みがわかります。

南雲氏からは最後に 「これからはこのようなデータに基づいて、都市ごとの個性を踏まえた公共政策をデザインしていくことが必要。」 という印象的な投げかけがされました。

黒木氏からは、産学官でのウェルビーイング指標の活用事例として、企業活動とメンタルヘルスについての動向や事例が紹介されました。

横浜市立大学 データサイエンス研究科 教授 黒木 淳氏

人的資本への注目の高まりとともに従業員のエンゲージメントが重要視されている中で、企業活動とメンタルヘルスについては、発展途上の段階ではあるものの、さまざまな動きが出ているという話の後、その具体的な測定事例の結果も共有されました。

例えば、経営者などが設定した高い目標に対し、ギリギリで到達したグループは、その後にメンタル的な不調を抱えて休職や退職をしてしまう人が多い、一方、余裕で目標を達成したグループや、逆に目標に到達しなかった人たちはあきらめからかそういった問題が出ない。こういったデータは、企業として目標設定をどうしていくかを考える材料の1つともなります。

黒木氏からは 「ウェルビーイング向上のためにどういうアプローチをとればいいのか。データを活用しながら考えていく必要がある。」 という話とともに、今後はウェルビーイング指標を使ったシミュレーションや予測、産学官共創での子育て世代や若者の支援も行っていきたいという目指す方向性が語られました。

若者のウェルビーイングには、これまでとは違う新たなアプローチが必要

宮﨑氏からは、日本のウェルビーイング数値を世代別にみると、これからの日本を創る若者のウェルビーイングが低いことが紹介されました。
「年代別の測定では、10代の結果は比較的高いものの、20代になり働き始めると低くなり、退職してセカンドライフを送りはじめると上昇することがわかりました。この、“働き続けている間はずっとウェルビーイングが低い”というのが今の日本の現状です。」

横浜市立大学 医学群教授・研究・産学連携推進センター拠点事業推進部門長 宮﨑 智之氏

そのような現状の背景には、心の不調(低いメンタルウェルビーイング)があるといいます。心の不調は生活の質の低下や、仕事で力を発揮しきれないなど、個人において負の影響を与えるだけではなく、社会全体に大きな経済的な損失を与える深刻な問題です。

現在、こうした心の不調を防ぎ、若者の自己効力感を高めるために、産学官連携のチームでさまざまな研究や活動が進んでいるそうです。

「うまくいかないときに、『自分が頑張っていないだけだ、もっと頑張らないと』と思うのではなく、不調を訴えたり、別のことをしてみたり、いろんな人と交流する。そんなふうに、自分の『心』に向き合い、大切にすることを当たり前とする“心を整える文化の醸成”を目指していきたいと思います。」 という力強い言葉とともに、心の不調の早期発見のための指標開発なども行われていることが話されました。

最後に小村氏からは、ウェルビーイングを支援する企業の取り組みと、若者の現状について話がありました。

ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長 小村俊平氏

まず、若者の生きづらさに関連したベネッセグループの取り組みが紹介されました。
1つは通信制高校に通う生徒を学習面、生活・心理面で支援するサポート校、アップ高等学院の紹介。今、通信制高校に通う生徒が増えており、多い県では10%ほどの高校生が通信制を選択しているそうです。
「一昔前は、通信校高校のイメージとして、通常の学校に通えなくなった生徒が通うというような印象を持たれることもありました。しかし、通信制高校は身近なものになり学校の在り方もずいぶん変わってきています。」
希望の進路として通信制高校を挙げる中学生も増える中で、多様な生徒の学習を支援するための取り組みが進んでいるといいます。

もう1つは、義務教育の先生方の業務を支援する株式会社EDUCOMが提供する 「スクールライフノート」。生徒たちが、日々の気持ちを 「心の天気」 として入力するシステムで、先生が生徒の状態を把握しサポートできるだけでなく、生徒自身が自分の心の状態について瞬間的なものではなく、継続的な変化として把握することができるサービスです。

次に、個人のウェルビーイングと社会の関係の話から、親世代と子世代の社会環境にどんな違いがあるかの共有があったうえで、現在の中高生の特徴として以下3つの点が共有されました。

<現在の中高生の特徴>
【アクティブラーニングネイティブ】
アウトプット重視、授業でも発言重視。自己表現に長けている。

【デジタルネイティブ】
ネットやPC、スマホがあり、自分にカスタマイズされることが当たり前。同じものを押し付けられると違和感、抵抗感を感じる。

【成熟社会ネイティブ】
努力は報われる、競争に打ち勝つ、といった価値観に違和感。例えば、「キン肉マン」 的な 「努力、友情、勝利」 ではなく、「ワンピース」 のように 「仲間、自由」 (本当に気心知れた繋がり)が重視される。

小村氏からは最後に 「今の若者世代は、現在の社会環境に適応する形でそれぞれにウェルビーイングを追求しようとしている。そんな彼らを含む様々な世代のウェルビーイングを引き出すために、我々はどんな社会環境を用意する必要があるのか。」 という問いかけがされました。

どのような地域社会を築くか、データをもとに議論を重ね考えていくことが大切

その後の4人そろっての対話セッションでは、データや社会、行政、大学、企業について、以下のような議論が交わされました。

  • データは大切。だがすべてではない。それをもとに既存の常識ありきではない議論をすることが重要。

  • 多様化する社会で予算も人口も減る中、行政も大学も、オールマイティを目指すのは不可能。強み弱みを把握し取捨選択することが必要

  • 企業は非財務指標をもって自社の存在意義を語れるようになる必要がある


「ウェルビーイングは、個人の能力であるかのように誤解されることがあるが、そうではなく、個人と社会の関わりの中にあると思う。」 という小村氏の言葉がありましたが、セッションを通じて、変化の激しい世の中で一人ひとりがウェルビーイングであるには、これまでの常識にとらわれずに、どのような社会にしていけばよいかを皆で議論し、作っていくことが大切であるように感じました。

そして、ウェルビーイングをデータでとらえることで見えてくるものがあることを知ったと同時に、ウェルビーイング指標から見えた課題や可能性に様々な示唆を得たセッションでした。

ベネッセ ウェルビーイングLabでは今後も、ウェルビーイングにまつわる最新の動向やニュースを発信し、様々な方と連携しながらこれからのウェルビーイングを一緒に考えて行きたいと思います。


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