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【調査を読み解く】若年層の幸せな活躍を支える“ソーシャル・ラーニング” とは?

2022年2月、ベネッセの社内シンクタンクである「ベネッセ教育総合研究所」は、立教大学経営学部 中原淳教授、パーソル総合研究所と共に、「若年社会人の『幸せな活躍』 」に関する定量調査の結果を公表した。この記事では、“学び”と“幸せな活躍”の関連性を掘り下げる。

(この記事は、2022年3月18日にWEBメディア「AMP」に掲載いただいた内容を、同社の許可を得て転載しています。)


“幸せな活躍”をしている若年社会人の共通点とは?

仕事で成果を上げていて、公私ともに主観的な幸せを感じられているのが、 “幸せな活躍”と呼ばれる状態だ。現代社会においてウェルビーイングを体現している状態ともいえるだろう。

この幸せな活躍をしている若年社会人はある共通点を持つことが、調査結果(若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査 )から分かった。それが“学び特性”である。

本調査では「5つの基本学び特性」を設定し、幸せな活躍との関連性を分析した

小林祐児氏「幸せな活躍をしている若年社会人は、前向きに学習に取り組んでいる人が、そうでないグループと比べて約1.8倍多いという調査結果が出ています。実際に、日本企業は新卒で一括採用した新人に対し、手厚く企業研修を実施していますが、効果はあまり出ていません。つまり、会社から与えられる受動的な研修や教育では、人はなかなか幸せな活躍につながってない。それよりも自分軸で主体的な学びに励んでいる人の方が活躍しているんです」

学びや学習に前向きに取り組んでいる層は、全体平均32.1%に対し、幸せな活躍層では57.1%という結果に

日本のビジネスパーソンは学ばない。これは他のアジア諸国と比べても、突出した特徴だという。ただし、日本人が怠惰というわけではない。むしろ社会に出てからの学びは「会社組織から与えられるものだ」という思い込みによるところが大きいのだろう。

中原淳氏「私はよく学生に、『自分の学びを手放すな』と伝えています。要は、学びを他人や組織任せにせず、自分で動くことを大事にすべきだ、ということです。就職後、『新人研修のレベルが低くて学べることがない』とこぼす新社会人がよくいますが、会社から提供される学びに不満があるなら、自分が主体的に学べばいいだけの話です。ビジネスに必要な能力・スキルを高めておく責任を持っているのは、自分です。もちろん、会社は、研修やOJTなどのサポートはしなければなりません。しかし、会社に頼り切るのは間違っていると、私は思います。まず、この認識を広く共有することが重要かと思います」

小林一木氏「実践はなかなか難しいと思われるかもしれませんが、自分自身の問題意識や課題感を持って社会に働きかけることが、主体的な学びへの第一歩。先日、幸せな活躍をしている若年社会人の方10人ほどにインタビューをする機会があったのですが、皆さん自分のやりたいことや学びたいことを自分軸で選ぶという意識を強く持っている印象でした」

実際、幸せな活躍をしている層は全ての学び特性が高いことが、調査結果からも分かる。これら5つの学び特性の中でも、特に幸せな活躍において重要なのが「ソーシャル・ラーニング※」だ。

※一般的に「ソーシャル・ラーニング」とはSNSを活用した学習を指すが、本調査においては、学習のためのコミュニティーを主催するなど、人を巻き込んだ学びの形や姿勢を指す

調査では、さまざまな特性の学びが幸せな活躍に直結することが判明。
際立っているのが「ソーシャル・ラーニング」である。

学びを通して他者や社会とつながる。ソーシャル・ラーニングの重要性

調査対象の基本的な属性や就業状態を統制した重回帰分析において、5つの学び特性と若年層の幸せな活躍との間に強い関連性が見られた。

中でも関連が強かったのが、他者を巻き込んだ学び「ソーシャル・ラーニング」である。ソーシャル・ラーニングが高い層は、低い層に比べて幸せな活躍をしている人の割合が実に約4倍という結果が出た。

ソーシャル・ラーニングの高い層では半数以上が幸せな活躍をしている

さらに、全ての「はたらく志向性タイプ」においても、幸せな活躍のためにはソーシャル・ラーニングが重要だと示す分析結果も出ている。

重回帰分析で有意だった特性を〇、最も偏回帰係数の高い特性を◎としている。
幸せな活躍におけるソーシャル・ラーニングの重要性は、どのタイプにも共通する

小林祐児氏「働き方の志向性タイプが多様である中で、“どのタイプにとってもソーシャル・ラーニングが重要である”という結果が出たのは面白いですよね。一方で、コミュニケーション力や問題解決力といった非認知能力については、特に共通点が見られなかった。幸せな活躍をするためにどんな能力が必要かは“人による”部分が大きいのに対し、学び方については多くの人に共通してソーシャル・ラーニングが有効だと考えられるわけです」

ソーシャル・ラーニングの例として挙げられるのが、勉強会や読書会など学習のためのコミュニティーを主催したり、同僚や友人と学びや経験を共にしたりといった学びのスタイルだ。自分の学びに他者を巻き込むことで、具体的な行動に落とし込むことが重要なポイントとなる。

小林一木氏「他者と共に学ぶということは、学校教育の方向性として学習指導要領でいわれている『主体的・対話的で深い学び』へと発展していく可能性を秘めています。知識の伝達中心の研修型の学びは、古くなりつつあると考えたほうがいいでしょう」

中原淳氏「一方で、最近はオンデマンドで学習コンテンツを見たり、AIが抽出した苦手問題を解いたりといった学び方も普及しています。いつの間にか、『学び=オンデマンドビデオを見ること』『学び=AIにリコメンドされたドリルをとくこと』に矮小化されているのです。もちろん、基礎的な知識をつけるために有用なこともあるため、こうした学び方を否定するわけではありません。一方、他者を巻き込んだ学びと両立していかないと、幸せな活躍にはつながりにくいようですね」

これらの結果から分かることは、学び方においても社会や他者とのつながりを重要視すべきということだろう。そしてもう一つ、幸せな活躍層をさらに深く読み解くためのキーワードが、「ソーシャル・エンゲージメント」だ。

“私たち”みんなで、ウェルビーイングを手に入れる時代へ

ソーシャル・エンゲージメントとは、社会の一員としての社会課題解決への関心の強さを指す指標だ。ソーシャル・エンゲージメントが高い層においては、幸せな活躍をしている人の割合が53.5%となっており、低い層(12%)と比べると約4.5倍も多い。なぜソーシャル・エンゲージメントの高さが幸せな活躍につながっているのだろうか。

ソーシャル・エンゲージメントも幸せな活躍との強い関連性が認められる

小林一木氏「社会で働く人にとって、人生の大きな比率を占めるのが仕事です。つまり、仕事を通じて社会とつながっている状態といえるでしょう。ただし、会社から与えられた仕事を受動的にこなしているだけでは、幸せな活躍ができないのがポイント。ここでもやはり、自分は何を目指すのか、何を実現したいのかを考える“主体的な学び”が重要なんです」

中原淳氏「かつて人々は政治運動や市民活動などを通して社会と関わっていましたが、現在はビジネスを通して具体的な社会課題解決に取り組むという関わり方が多い。だから、ソーシャル・エンゲージメントが幸せな活躍につながるんですね」

小林祐児氏「自然環境や貧困問題、地域の課題など、多くの面で社会のサステナビリティが問われている今、会社組織ではなく、社会に対するエンゲージメントというのが、これから重要な概念になりそうです。主体的な学びから社会課題に興味を持ち、ビジネスを通じて課題解決を目指すことが若年社会人の幸せな活躍、つまりウェルビーイング実現へのアプローチになるのではないでしょうか。

ウェルビーイングというと、『私の主観的な幸せ』と捉えられがちなのですが、今回の調査結果から主語を『私』を『私たち』にしていかなければならないと感じました。我々は一人で生きていけません。『私たち』というコミュニティーをつくって、その中で共に学び、共に幸せになるという方向に変わっていく必要があるように思います」

個人が争い合って幸せの椅子取りゲームをする時代は終わる。これからはソーシャル・ラーニングやソーシャル・エンゲージメントをキーワードに、「私たちのウェルビーイング」の実現を目指すべきなのだろう。

中原淳氏「他者と共にあること、学び続けること、自分の人生を決めること、社会の中にあること、誰かに働きかけること、これら5つの要素の掛け算がウェルビーイングであることを、今回の調査で強く再認識しました。結局、誰かと共にいることが幸せであるという意味で、『私たちのウェルビーイング』という考え方が重要になっていきそうですね」

高度経済成長期の“大量消費の幸せ”を経て、我々は幸せの価値観をアップデートしつつあるのかもしれない。それが社会や他者と関わることに幸せを感じる、私たちのウェルビーイングなのだ。その上で、「ウェルビーイングの実現に寄与するのが教育である」と、小林一木氏は力説する。

仕事での活躍と幸せ、学ぶことと働くこと。これまで別々に語られることが多かった概念や領域がうまくリンクしたとき、「私たちのウェルビーイング」が実現できるのかもしれない。日々の仕事に追われる生活が「幸せでない」と感じているならば、自分がどんなことに興味を持ち、どんな場所で活躍したいのか、一度立ち止まって考えてみてほしい。その思考の先に、ウェルビーイングへの道筋が開けているのかもしれない。

2022.3.18 AMP掲載記事より転載)

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