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【ワークショップレポート】“幸福学”から紐解く、社会人のウェルビーイング

「ベネッセ ウェルビーイングLab 」では、バックグラウンドの異なる多彩な人々による対話を目的に、設立後の第一歩の活動として、“働く人のウェルビーイング”について対話の中で理解を深めるワークショップを開催。2023年2月に開催された「第7回サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内」がその会場となった。

本記事では、同セッションにおける慶應義塾大学大学院の前野隆司教授の講演、対話を通じて共有された参加者の声を通じ、さまざまな人が「これからをウェルビーイングに生きるためのヒント」について考える。

(この記事は、2023年3月22日にWEBメディア「AMP」に掲載いただいた内容を、同社の許可を得て転載しています。)


パフォーマンスに影響する幸福感、働く人が幸せに近づくために

多様な人が参加し、交流の中でサステナビリティの潮流や活動を知り、未来を考えるコミュニティ・カンファレンスとして、2月に開催された「第7回サステナブル・ブランド国際会議2023東京・丸の内」。今回、会場となった丸の内エリアの複数の施設で、特別企画として丸の内エリアのビジネスパーソンや一般向けのオープンセミナーが開催された。その一つとして実施されたのが、対話の中で“働く人”のウェルビーイングを考える「ベネッセ ウェルビーイングLab(以下、ラボ)」のセッションだ。

「ラボ」のフェローとして参画している慶應義塾大学大学院の前野隆司教授を迎え、「サステナビリティ×ウェルビーイング」をテーマに開催した参加型の同セッションには、丸の内エリアやその他から集まった多数の人が参加した。

前半では、幸福学研究の第一人者である前野教授がオンラインで登壇。私たちはどうしたらウェルビーイングな状態に近づくことができるのか、具体的な事例も交えながら、さまざまな行動や考え方のヒントを示した。

前野氏「幸せに働き、幸せに生きるとは、どのようなことでしょう。ウェルビーイングとは、『体と心と社会の良い状態』のことです。つまり、健康で、幸せで、福祉が行き届いている状態。最近では、『幸せ』と同じ意味で使われることが多いため、今日はウェルビーイングな状態、幸せな状態ということについてお話しします」

まずスライドを用いて「幸福感とパフォーマンスの関係」が示された。それによれば、“幸福感の高い社員”は創造性が3倍高く、さらに生産性や売り上げもプラスとなっている他、欠勤率や離職率も低いなど、人の幸福感とパフォーマンスには相関があるという。幸せであるということは、さまざまなプラスをもたらすパワフルな要素であることが分かる。

では、どのようにすれば働きながら「幸せ」を得ることができるのだろうか。前野教授の研究室では、パーソル総合研究所と共同で、「はたらく人の幸せと不幸せの因子」を研究している。その結果、幸せになる条件と、不幸せの条件(因子)は必ずしも反対関係にあるわけではないということが判明したという。

前野氏の研究室とパーソル総合研究所が共同で分析した
「はたらく人の幸せの7因子・不幸せの7因子」

前野氏「例えば、オーバーワークは人を不幸せにしますが、反対に仕事時間が短すぎても人は幸せにはなりません。『自分が認められていると感じない』『認められていないから、こんな簡単な仕事をさせられている』と考えてしまうのです」

職場には、『不幸せにならないよう気を付けることと』『幸せになるよう気を付けること』の両方が必要だ、ということなのだろう。そして、幸せに近づくためには、自分だけではない他者との関係性も重要なのだという。

前野氏「1日に何時間も費やす仕事は、前向きに取り組みたいもの。幸せに働くためには、必要な要素があります。自分に裁量権があり、成長を実感していて、時にはリフレッシュできること。人間関係による因子では、特に他者への貢献、利他の心や思いやりがとても大切です。ただし、それが自己犠牲ではなく、自分ゴト化できていて、無理やりではなく心からそう思えることが大切です。これらは幸せな組織やコミュニティーの条件で、家庭にも当てはまるものです。ご自身の職場やコミュニティーにおいて、どこが強く、弱いのかを見直してみてはいかがでしょうか」

幸福学が明かす。長続きする幸せと、しない幸せ

次に前野教授は、より全体的な「幸福学(well-being study)」の基礎として、前提となる「地位財」と「非地位財」という概念に触れた。

前野氏が提唱する「幸福学(well-being study)の基礎」

前野氏「『地位財』は、他人と比べられる財です。お金やモノ、社会的な地位などが該当しますが、これらは基本的に“長続きしない幸せ”です。例えば、『課長になった!』と喜んでもジェットコースターのようにすぐに下がり、次は『早く部長になりたい』と思うのです。お金も、やっと給料が入ったとローンを返したら、次の給料日が待ち遠しくなる。モノも、時計を買ってうれしいなと思った先には『もっといい時計が欲しい』。こうした欲望の充足による幸せは長続きしないので、あまりお薦めしません」

一方の「非地位財」は、他人と比べられない財だ。その代表例として前野教授は「体験」を挙げる。

前野氏「ある研究で、購買型の消費より体験型の消費の方が、幸せが長続きするという結果が出ています。10万円があり、『服を買うか』『旅行に行くか』を悩んだとしましょう。一見すると服の方が長持ちするように思えますが、地位財であるモノによって得られる幸せは短い。一方で、旅行は体験としての思い出が長く残り続けます。ウェルビーイングであるためには、こうした非地位財を追求することです。それによって、長続きするサステナブルな幸せが得られるのです」

「非地位財」は「安全など、環境に基づくもの(社会的に良好な状態)」「健康など、身体に基づくもの(身体的に良好な状態)」「心的要因(精神的に良好な状態)」の三つに分けられ、これは身体的・精神的・社会的に良い状態であるウェルビーイングとも一致する。日本は安全面や健康など社会的・身体的な良好さの状態は高いレベルにあるが、「精神的」な良好さの状態は、海外と比べ低い水準にあるという。

前野氏「日本は成長が停滞し、心の幸せでは世界幸福度ランキングなどで他の先進国と比べかなり低い位置にあるとされています。しかし、見方を変えればこれは“伸びしろがある”状態ともいえます。では、どのようにすれば心が幸せな状態になるのでしょうか」

前野氏はここで、これまでの分析に基づいた“幸せの四つの因子”を提示する。

前野氏「まず一つ目が『やってみよう』の因子。『やってみよう』と思える人は成長し、そこから自分の強みを見いだして自信を持ち、幸せになります。そのためには主体性を持って生き・働くこと、やる気になれることが大切です。その反対は“やらされ感”で、会社で働く人はこちらになりやすい。子どもの時に『勉強をやりなさい』と言われてやる気になった方は少ないと思いますが、職場も同じです。難しいことを『早くやれ』と強要したら幸福感が下がり、生産性などマイナスが連鎖していきます。そうではなく、『難しいけど君にしかできないよ』『任せるよ』といった方が、やる気を出すことができるのです」

  • 二つ目は、「ありがとう」。人と人との心の通うつながり、感謝。

  • 三つ目の「なんとかなる」因子は、自己肯定感が低く謙遜しがちな日本人が、意識すべきポイント。

  • 四つ目の「ありのままに」因子は、自分らしい生き方、自分軸のことを指す。

これら四つの因子について重要なのは、「全てを満たしている」ことだと、前野氏は考えている。

前野氏「極端に自分軸だけ考えるのではなく、他者への利他の心も大事です。チャレンジ精神や主体性を持つことはさまざまなシーンで重要になります。全部は難しいという人は、仕事でも私生活でも、ちょっとだけ伝え方を変えたり、前向きに考えたり、ありがとうと言ってみるとよいでしょう。目標が高過ぎるのもよくありません。やるかやらないか迷ったら、自分の心が幸せな範囲でチャレンジしてみる。そんな小さな一歩の積み重ねが、きっと皆さんに幸せを与えてくれるはずです」

ウェルビーイングを実践するために向き合うべきこと

講演終了後、参加者は5~6人のグループに分かれて感想や気付き、心に響いた言葉を共有し、参加者同士で多様な意見が交わされた。

その後、グループごとの気付きを、参加者全員で共有する時間が設けられた。ウェルビーイングという大きな方向性に向かう目線としては、個人も企業もそろっているものの、具体的に実践する際に障壁を感じる人が多いようだ。

グループワークでは前野氏の講演内容を踏まえて、さまざまな視点からウェルビーイグの在り方、実践に向けた議論が行われた

対話の中でウェルビーイングのコツを学び合う

こうした専門家の知見の共有や幅広い一般参加者との対話は、「ベネッセ ウェルビーイングLab 」の活動の一環として行われた。「ラボ」ではこれからも、イベントやワークショップを通じてさまざまな人がウェルビーイングを考える機会を提供していく。

所長であるベネッセホールディングス常務執行役員の岡田晴奈氏は、イベントの最後に「ラボ」の活動について参加者たちに語った。

岡田氏「ベネッセ(Benesse)は、ラテン語の『bene(よく)』と『esse(生きる)』の造語で英語ではウェルビーイングです。私たちは、これまで事業を通じて人の一生に寄り添いながら、さまざまな方のウェルビーイング実現に向けた取り組みを行ってきました。

そして、未来に向けてウェルビーイングを追求するためにスタートした『ベネッセ ウェルビーイングLab』では、それぞれの方にとって『“よく生きる”とはどのような状態か』『その状態に近づくためには、どのようなことをすべきか』について、さまざまな世代の方々と対話し、専門家の知見もいただきながら、実践に向けたヒントを発信し、共創をしていきたいと考えています。今日のセッションのような機会の中でさまざまなアイデアを交わしながら、ウェルビーイングに向かうコツを学び合い、より良い世界のために前進をしていきたいと考えています」

ベネッセホールディングス 常務執行役員 サステナビリティ推進本部長 岡田晴奈氏

幸せのコツを学び、そこで出会った知見を他の人に共有する。こうしたプロセスの連鎖で、幸せが広がっていくのであろう。対話し、学び、発信し、共創しながら、「ベネッセ ウェルビーイングLab」の活動は進んでいく。

2023.3.22 AMP記事より転載。情報は当時の内容です。)

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